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皇国ク・ロ、皇歴368年に産まれし勇者"シ・ロイノ"は、鍛冶屋であるところの"シ・メイ"が嫡子である。

若き頃、"シ・メイ"はその父であるところの"シ・ロイヨ"に、皇国が秘密を教えられた。


「我らが平民の暮らしが暗く・苦しいのは、かつてこの地を治めていた人ならざる者、"ア・オイノ"が魂を失ったことが原因である」


「遠き日のア・オイノが歩く道は、花咲き誇り、光輪は玉虫色、娘たちは良く肥え、男たちは仕事に汗を流し、遍く幸せに満ちていた」


「して我が父よ、何故彼は魂を失いしか?」


「皇王が仕業よ」


「ああ!なんと恐れ多きことを!彼の人を侮辱せしか!!!父よ!見損ないましたぞ!!」


「我が子、メイよ。その無知を子どもらに伝えるでないぞ」


「なにを!なにを言うか!己が野望に溺れし者よ!無知であるのは貴様の方であろう!!!」


「伝えおこう。星が幾たびも回りし遠き日に空は黒に包まれよう。メイよ、貴様ではもはや果たせんが、汝が子は必ず果たそうぞ」


二日後にロイヨは黒き影に殺された。
黒き影は皇王を守りし衛兵である。
その身を漆黒のローブに包み、貌すら窺えぬ忠犬である。


五年ほど後にメイに息子ロイノが産まれた。
亡き父の名を借りたのは、メイに残る微かな父への想い故にであった。
そして、ロイノが数え年で十になるとき、皇国に闇に包まれた。
日は昇らず、黒き影が人々を襲った。
人々は城の鐘が鳴るほんのわずかの間しか外に出ることが出来なくなった。
飢えたメイは床下からほのかな風が通るのを感じ、己が家の床板を外した。
そこには深く掘られた洞穴があった。
洞穴に降りると、そこには亡き父からの置手紙があった。


「これを読むのはメイであろうか、或いは未だ知らぬ我が孫か、もしくはもっと遠き日の人であろうか」


「私はシ・ロイヨ。青き王の側近であった"シ・ロクテツ・ヨイ"が子孫」


「青き王の魂は、皇王が隠し持っている。それ故、我が子孫は黒き日々に恐れおののいているであろう」


「この洞穴は城に続いている。いまや私だけが知る道だ」


「私はこの道を通ることは出来ぬ」


「既に老いた。近く神隠しにでも遭うだろう」


「これを読んでいる者がメイであれば、何を思うか?」


「後悔しているか?それとも怒りに震えているか?」


「誰かに託すしかない」


「お主に託すしかないのだ」


「この先に置いてあるブレスレットを使え、そこから出る光弾は黒き者を光に溶かす」


「幸運を祈る」

メイは息子ロイノに書置きを残し洞穴へ潜っていった。


「父はかつての過ちを正さなくてはならぬ」


「もし私が成し遂げられなければ、お前に意志を継いでもらわなければならぬ」


「己が血を誇れ」

メイは洞穴を進み、城にたどり着いた。
途中で時空が歪んだように感じた。たどり着いたのが城の最上階だったからだ。
メイは黒き影を難なく溶かしていく。
五分もたたぬうちに彼は皇王の前にたどり着いた。


「青き王の魂を渡せ」


「私を殺せば自ずと現れよう」


「そうか」


皇王はメイが光のうちに溶け、その死体からは赤の闇が漏れ出した。
青き王を抑えていたのは赤き王。
皇王は傀儡にすぎなかった。
が、赤き王は獣。
治めることを知らぬ。
メイは闇に撃たれ身体を引きずりながら洞穴へ逃げた。
そして、洞穴をふさぐと己が父ロイヨの書置きの横にブレスレットを置き、


「我が子ロイノよ、父は果たせなかった。残された時間は少ない、赤き王を撃て」


と書き残し果てた。
こうしてロイノは己が血の定めにより勇者となる。

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